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2007年 08月 28日

【曲月/kusezuki】

…人は自分のクセに縛られて人生を生きる。クセは曲者である。
<例のコラム>
 飛行機に乗るときにはいつも非常口の通路側と決めている。背が高い
ので足を伸ばしたいのが第一の理由だが、心の片隅にはこんな理由も
呟いている。
「いざ有事というときに僕は黙って見ておれない質なので、非常口に座っ
ていたほうが率先して避難活動に参加できるからな〜」
 ということで、その日も非常口通路側を指定しようとしたのだが、あいに
く通路側が空いていなかった。
「窓側でもいいんですが、足を伸ばせるスペースはありますか」と僕。
「ご登場いただきます機は非常口の座席の前がでっぱりなどがないタイ
プですので・・・」と答えたのは、登場手続きをしてくれた窓口の女性。
 このような経緯があって、僕はその日、非常口窓側の席に座ったのだっ
た。
 久しぶりに乗る窓側は、快適だった。
 離陸後、外に目をやると、曲がった月が窓ガラスの向こうに見えた。ガラ
ス越しなので曲がってみえるのだろう、と僕は思った。曲がった月だから
「曲月/くせづき」なんてネーミングはどうかな、と頭で呟きながら、僕は
空港の売店で買っておいた弁当を食べた。ちゃんと味付けされた野菜の
炊き合わせなどが入っていて美味い弁当だった。お茶は黒豆茶。空港の
あの売店では黒豆茶と、僕は決めている。
 弁当を食べ終えると昨日日本橋の書店で買っておいたよしもとばなな
の文庫本を読んだ。癒しを求めるときにはばななに限る。読みやすい割
にシンプルな哲学性みたいなものを感じさせてくれる。
 そこで僕はまた外を見た。
 曲月は、ここが自分の定位置だといわんばかりに窓ガラスに映っていた。
 月は飛行機の後をずっと追いかけているように思えた。
 若い男女が主役の幽霊が出てくる話を読み終え、僕はしばらく目を閉じ
た。しばらく、のつもりだったのに、次に目を開けたときには、今から着陸態
勢に入りますという機内アナウンスが聞こえていた。
 飛行機はぐんぐん高度を下げていき、滑走路にあとわずかというときだった。
 僕は曲月の正体を知った。
 僕が窓の外に目をやると、飛行機の翼が眼下の町の灯りの中に、その黒い
輪郭を浮かび上がらせたのだった。上空で窓の外に映る暗闇と思って見てい
た部分の多くを飛行機の翼が占めていたのだ。
 その翼の先に曲月がくっついていた。
 それは、飛行機の翼の位置を示す常夜灯だった。どうりでちょっと曲がってい
たのだ。
 今日、僕は自分のクセに従っていくつの思い込みをしたのだろう。こんな勘違
いが、他にもあったかもしれない。
 クセは曲者。曲月を観たら、勘違いして生きていないかすこし振り返ってみる
ことにしよう。
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by cafejien | 2007-08-28 17:26