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2007年 07月 31日

【風の車椅子】

‥逞しい障害者もいる。かっこいいほどに
<例のコラム>
 千葉のイベントが終わりバスに2時間ばかり揺られた僕は、
東京駅八重洲口からJRに乗り込んだ。
 午後9時を回っており、テレビでは参院選の速報番組が特
集されているのだろうなと思いながら改札口を抜けた。
 京葉線で八丁堀まで行き、そこで日比谷線に乗りかえて定
宿のある人形町へと向かう予定だった。
 東京駅の京葉線乗り場は、設立当初のスカイマークの乗り
場が空港のはずれにあった(しかもそこからバスに乗って移動
する必要があった)ように、東京駅のはずれのはずれにある。
従って相当な距離を歩かなければならないのだが、ぎりぎりの
予定で移動しているときなどはそれは命取りになるほどで、予
定に合わせて乗り継ぐために走りに走った挙句に心臓がばこ
ばこと悲鳴をあげて、文字通り命取りになりそうな経験をしたこ
とがある。
 でもその日の僕には余裕があった。参院選の結果も命がけで
知るほどのことではない。
 京葉線の乗り場へ僕はこつこつと歩いていった。
 長いエスカレーターで地下へ下りはじめたときだった。僕が乗
っているエスカレーターの左横にも下りエスカレーターがあり、
何気なくそちらを見ると、下りとは反対方向、つまり上り方向を向
いている青年の上半身が見えたのだ。
 それは、車椅子に乗った男性が何らかの理由とやり方で車椅
子の向きを上り方向に向けてエスカレーターに乗っているのだと
容易に想像できた。
 エスカレーターを降りるときに車椅子が床面に引っかかること
なくスムーズにうまく着地できるのか、僕は一瞬、心配になった
が余計なお世話だった。
 青年はなんなくさらりと着地すると向きを前に向け、滑るように
進んでいったのだ。
 青年は一人ではなかった。同じく車椅子に乗った同年代の青年
たちが他に3人、彼の前に車椅子を進めていた。
 「歩く歩道」に来ると、先行する3人はそれには乗らなかったが、
彼はそれに乗りさらにスピードアップして前に進んだので、3人を
すぐに追い越した。
 僕も早足になって彼に続いたのだが、「歩く歩道」ならではの障
害物が彼を待ち受けていた。
 ぼんやりとした感じを背中に漂わせた歩行者が歩道の真ん中に
突っ立っていたのだ。こんなとき僕だったら、「すみませ~ん」と声
を伸ばしながらその歩行者の横をすり抜けようとするところだが、
彼は、そうはしなかった。
 彼は、ぼんやりと立ち尽くすその歩行者の後ろに車椅子を停めて
信号が青になるのを待つようにしばし休憩といった感じだった。
 3人の仲間はすぐに彼に追いつき、ちょっと「動く歩道」の「動く手
すり」につかまって動きながら彼に笑いかけると、手で手すりを蹴っ
て「お先に失礼!」とばかりに先に行った。
 その無言の、笑顔のやりとりは、バスケットなどのスポーツ選手が
プレーの最中に繰り出すサインのようだった。
 「動く歩道」が終わると彼は先行する3人を追った。再び下りのエ
スカレーターがあり、どうするのだろう僕が見ていたら、エスカレー
ター直前まで来ると彼はクルリと車椅子をターンさせ、車輪を踏面に
さっと乗せると両手を大きく広げて手すりをつかんで背後に進んだ。
 その両腕はよく鍛えられた筋肉の盛り上がりを見せ、彼が車椅子
を使ったスポーツ競技の選手であることを想像させた。
 両腕は大きく広げられた翼のようだった。
 エスカレーターが終わって見事に着地すると、彼は仲間を追って
風の車椅子で通路を疾走した。そのスピードはあまりに速く、僕は
彼の姿をすぐに見失った。
 それは逞しい人間の姿だった。
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by cafejien | 2007-07-31 12:59
2007年 07月 19日

【質問してもいいですか?】

‥スムーズに会話をスタートさせるおまじないの言葉
<例のコラム>
 夏は汗疹や虫刺されの季節。肌が弱い僕はよく皮膚科に
行くことになる。
 診察がおわったら薬局へ行くのだが、そこで気になること
があった。薬局は二つあって、どちらでも薬が受け取れるよ
うになっている。僕はその日の都合でバス停前の薬局に行く
こともあれば、皮膚科のすぐそばの薬局に行くこともある。
 ところが、どちらの薬局に行っても、受付に座っている薬剤
師らしき若い女性が瓜二つなのだ。
 最初は僕がその薬局に行ったときにたまたま同じ女性が座
っているのだろうと思っていた。
 でも、偶然にしてはいつも決まって瓜二つの顔が僕を待ち
受けているのだ。
 で、僕は勇気を出して訊こうと思った。
 だが、若い女性に、気軽に声をかけるなんて、イタリア男で
はない僕は、いささか悩んだものだ。
 でも、まー、そこは年の功だ。真剣に訊こうと思えば素直に
言葉が出てきた。
「あのー、質問してもいいですか?」
 僕はこんな風に切り出したのだった。
 すると自然に言葉がついてきた。
「お二人はよく似ていらっしゃるな~と思ってたんですが、もし
かしたら・・・」
 すると彼女は答えた。
「よく言われるんですよー。私たち姉妹なんです」
 なるほど、姉妹だったんだ!!と納得した僕。
 するとこれも偶然、薬局の奥からもう一人の瓜二つさんも登
場してきて、しばし僕らは笑顔で会話したのだった。
 どうしても会話したいという場合や、声をかけたい人がいると
きには、「質問してもいいですか?」という言葉を口に出すとい
いかもしれない。
 それを出だしの台詞に決めておけば、後はなんとかしゃべれ
るものだ。
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by cafejien | 2007-07-19 22:44
2007年 07月 03日

絵<物語

…建築家を選ぶコツである。
<例のコラム>
 小川真樹さんという建築家がいる。
 小川さんが書いたミニ絵本「ひとりで暮らす ふたつの家」を
読めば、小川さんがどれほど素晴らしい家づくりをするのかが容
易に想像できる。また、絵本の構成力から、どれほど優れたシナ
リオを家づくりのなかに反映できるのかも、理解できると思う。
 だが、小川さんに住宅設計の依頼をする建主は少ない。(小川
さんは集合住宅の設計で相当な実績があるので、集合住宅を設計
することが多い)
 なぜか?
 建主は、建築家がこれまでに建てた住宅の実績だけを作品集で
見て、それで設計依頼をしようかしまいか判断しがちだからであ
る。そこには、作品集の写真の出来映えに翻弄される建主たちが
いる。
 正直に言おう。プロのカメラマンが撮影した建築写真は、実物
以上に建物をよく見せることがあるのだ。
 ところが、その部分に重きを置かない建築家たちはプロのカメ
ラマンに撮影を依頼することがないので、彼らの作品集は、プロ
のカメラマンに撮影を依頼して完成した作品集よりもどうしても
見劣りがするのである。
 小川さんもそんな建築家の一人だ。
 建築家を選ぶコツがここにある。
 絵<物語。(エ ショウナリ モノガタリ)
 建築家がどんなデザインをしたかよりも、その家づくりにおい
てどんなシナリオを描いたのか、それこそを観てほしいのだ。
 作品集の写真に誤摩化されてはいけない。よーく目を凝らして
建築家の家づくりのプロセス(シナリオづくり)を観てみよう。
数少なくても、いい仕事をしている建築家が手がけた住宅にはぴ
かりと輝く物語性がある。
 小川さんの場合は、建主を家づくりの主役として文化的で豊か
な空間づくりに参加させているところが、それだ。
「ひとりで暮らす ふたつの家」は、プロトハウスギャラリーに
展示しているので、必ず、そのシナリオを読んでほしい。
 それにしても小川さんの構成能力はただ者ではないと思って訊
いたら、小川さんの父君はかの有名なテレビドラマの脚本家だっ
たのだそうだ。なるほど!!!
 いい家を作りたい建主さんにとって、今、小川真樹さんは、狙
い目な建築家である。
 
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by cafejien | 2007-07-03 19:33