2007年 03月 10日

【泳ぐ建築家】

…いろんな海を建築家は泳いでいる。
<例のコラム>
 昨日今日とインクルーシブデザインのワークショップに参加してきました。
 私がアドバイザーとして参加している九州大学ユーザーサイエンス機構主
催のワークショップです。
 講師はRoyal College of Art Helen Hamlyn Centre(英国の王立芸術
大学院ヘレンハムリン研究所特別研究員)のJulia Cassim(ジュリア・カセ
ム)さん。ジュリアさんですから女性の方。インクルーシブデザインの実践的
な指導者です。
 インクルーシブデザインはユニバーサルデザインとよく似ていると紹介され
がちですが、ユニバーサルデザインが老人なら老人の平均値にアプローチ
しようとしているのに対し、インクルーシブデザインは、ターゲット層のなか
でもよりメインストリームなユーザーにフォーカスすることで、より創造的にし
かもリアルにグッドデザインを導き出すことができる点に違いがあるのだと
知りました。つまり障害者を対象とした商品開発であれば、より重度な障害
者の周辺にこそ創造的なグッドアイデアを生むヒントがあるというのです。
 ワークショップでは、会場となったスタジオ内で、まず課題に対するアプロー
チの方法を学び、それから実際にフィールドに出て、対象として選んだ環境
や商品、空間を、理解・調べ・改善策を練り・それを判断し・テストによって新
たな価値を創造していくということを行いました。僕の参加したアトランティス
チームは出力センターのキンコーズにリサーチに行き、その新たな可能性を
プレゼンテーションしました。
 このワークショップに参加して、僕は、今僕らが提案している家づくりのプロ
グラムに採用すべき多くのことを“フレキシブルに”学ぶことができたように思
います。インクルーシブデザインでは、ユーザーのことを「デザインの失敗に
よって最も影響を受けている人」と位置づけているのですが、それなど最たる
収穫です。
 「建築家が提供する、あるいはしたデザインによって最も影響を受けている人」
を思うとき、僕は今の建築家たちが提供するデザインに大きな不安を感じずに
はいられないからです。
 ジュリアさんが指摘したインクルーシブデザインの次のポイントは多くの建築
家が耳を傾けるべきです。彼女はこう言いました。
「ユーザーの声を聞くこと、その生活を見ること、自分でもそれを体験すること
(すなわちその立場になって知ること)、最後に想像すること」
 こんな単純なことを、建築は忘れてはいないでしょうか?
 (建築家のみなさん、この具体的な方法を知りたいとは思いませんか?)
 昨日、本屋で某建築雑誌を立ち読みしました。
 そこには、前衛的なデザインがなされた建築家住宅がセレクションされていま
した。
 正直に言います。そこに掲載された住宅がダメだと言うのではありませんが、
もううんざりします。疲れます。スタイリッシュで変わった新規性に満ちた住宅を
紹介すれば販売部数は伸びるのかもしれませんが、いい加減、馬鹿げていると
感じませんか? 
 住宅はファッションではありません。人が生活する拠り所です。
 もちろんスタイリッシュにデザインされた住宅をすべて否定するわけではありま
せん。中にはそのようなデザインが好きなユーザーがいらっしゃるのも事実です
し、私自身、そんな住宅もプロデュースしてきました。しかし、そこにはちゃんと
家づくりの目的があって、その結果としての“ヘンテコな形をした”住宅の誕生が
あったのです。
 家はデザインのみで語るべきものではありません。構造があり、室内があり、身
体に影響を与える温熱環境の仕組みがあって、それらが組合わさってはじめて
家のデザインとなり住み手の暮らしに影響を与えるのです。
 建築雑誌の編集者たちは、もっと責任をもって家の全体デザインを語るべきだ
と思いませんか? それこそインクルーシブデザインの視点で。
 インクルーシブデザインのワークショップに参加し、僕は、今までに増して、生活
者の視点で家づくりの仕組みをつくりあげることの重要性を感じました。
 このような視点に立ったとき、今の建築家たちの中には、建築家住宅幻想という
海を泳がされている人も多いように思います。
 とある団体主催の建築家住宅をネタにしたイベントで全国を飛び回る建築家やそ
れを高名な建築家と呼んで親しげに交流を図っていることを自慢する建築家などは、
自分が泳いでいる海の本質を知るべきでしょう。
 もちろん、意匠だけでなく、構造も温熱環境づくりも自分なりにスキルア
ップを図りながら、明確な目標を持って「いい家づくり」の大海を泳ぎきろうとがん
ばっている建築家もたくさんいます。
 僕は、この後者の建築家たちと、総合的なデザインの失敗のない、安心して住まう
ことのできる住宅をつくっていきたいと思います。
 これからは、より本質が問われる時代です。
 建主も、本物を見抜く力が必要です。
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by cafejien | 2007-03-10 01:22


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