カフェ辞苑

cafejien.exblog.jp
ブログトップ
2006年 10月 09日

【コーラのチカラ】

‥チカラは思い込みで生まれる。
<例のコラム>
 小学校の高学年のときにテレビの中で東大闘争を観て育った
僕らの時代には、少年野球ではなく、ソフトボールが一般的では
なかったと思います。僕の育った九州の田舎だけがそうで、都会
ではすでに野球が一般的な子供たちの遊びだったのかもしれま
せんが、その頃の僕にはソフトボールこそが最大の遊びであり晴
れの舞台でした。
 僕はショートを守り、2番か3番辺りを打っていたように思います。
毎年、地区大会があり、町内ごとに選手を決めて望むのですが、
大会に出ることができるのは、コーチをつとめる先輩たちによって
実力を認められた者たちなのでした。
 その選手選考会のときに、こともあろうに僕はお腹をこわしてしま
ったのです。チクチクと痛むお腹をおさえ、砂漠のように砂の舞い
上がる小学校の運動場の片隅で膝をかかえる僕の前に登場した
のがコカコーラでした。
「これはね、アメリカで飲まれてる栄養剤やけどね、どうね、飲んで
みるね?」
 そういって僕にコーラの瓶を渡してくれたのはTさんという先輩コ
ーチで、なにかと僕をかわいがってくれた人でした。
「栄養剤って?」
「栄養剤ってね、すごいチカラが出る飲み物たい」
 そういってTさんはコーラの瓶を目の高さに持ってにやりと笑いま
した。Tさんは僕らの小さな町内に唯一あったT商店の跡取り息子
です。ことあるごとにスイカや瓜といったお店の商品を持ち出してき
ては仲間に配るので、みんなの尊敬を集めていました。
 コーラの瓶をはじめて観た僕は、今までに見たこともないその滑
らかな流線型をしたボディデザインに翻弄されました。薄緑色のガ
ラス瓶は生き物のように体をくねらせて僕の手にわたりました。瓶の
なかでは黒い液体がうごめいています。
「怪しい・・・。怪しすぎる」と僕は思いました。しかしそう思っているの
とは裏腹に、僕はよく冷えた流線型をわしづかみにして、ゴクッ、ゴ
クッと乾いたのどに黒い栄養剤を流し込んだのです。
 僕は目覚めました。自分はなんとひ弱だったのだろう。たかが腹
痛くらいでへこたれているなんてなんと情けないのだろう。
 コーラを飲んだ僕はさっきまで膝をかかえていた少年とは別人に
なっていました。腹痛はどこかへ消え去り、天には雲ひとつない青
空が広がり、僕は木のバットを持ってバッターズボックスに立ってい
ました。
「コーン!」
 快音とともに僕の打ったソフトボールは左中間を抜けていきました。
すごい声援がわきおこり僕は走り出しました。
 二塁打を放った僕が地区大会の選手に選ばれたことはいうまでも
ありません。
 コーラがただのドリンクだと知ったのは、それからすぐのことでした
が、それでも僕はコーラには不思議なチカラがあるような気がしてな
りません。それは今でも同じで、時々無性に黒い栄養剤を飲みたくな
るほどです。
 思い込みのチカラは絶大です。
[PR]

by cafejien | 2006-10-09 00:48


<< 【邪道ブログ】      【風に吹かれて】 >>